嘘をつかない(仕事の心がけ)
世の中には「ちょっとした小技」を使って相手より優位に立とうとする人がいます。「さりげない言葉遣い」によって自分を優れていると見せたがる人もいます。
ときには、そのような「ちょっとした小技」や「さりげない言葉遣い」が効く場合もあるでしょう。「この人はすごいな!」と相手に思わせる効果があるかもしれません。
でも、繰り返しは効きません。
一度や二度は効くかもしれませんが、三度四度と繰り返すうちに、まわりの人は気付き始めます。ああ、この人は「すごい人」ではなく、「すごいなと相手に思わせる人」なのだとバレてしまうのです。
嘘をつく。人をだます。人をあざむく。そういう行為は、繰り返しに弱いものです。マジシャンが同じマジックを繰り返さないのには意味があるのです。
嘘をつく。人をだます。人をあざむく。それらはもともと賢明な行為ではありません。長期的な活動が自分の主戦場ならば、特にそうです。なぜなら、嘘をつく作戦は、長期的には必ず失敗するからです。人をだます作戦や、人をあざむく作戦は、必ず行き詰まります。
もしかしたら、何回嘘を繰り返しても失敗しない人がいるかもしれません。でも、嘘は知性に対して大きな負担を強いるものですから、その意味でも賢明なことではないと思います。
知性に対する負担という表現はまわりくどいですね。一例を挙げましょう。嘘つきは、自分の嘘をずっと記憶していなければなりません。これは記憶に対する負担といえます。
それに対して、嘘をつかない人は楽です。誰に対しても、いつであっても、自分の気持ちの通り発言すればいいからです。
嘘をつく人は違います。この人にはどう言ってたか、あの人には自分をどう見せていたか、前回はどんな嘘をついたかを把握しておく必要があります。つじつまが合わなくなったときに、それは自分の嘘がほころびつつあるのか、単なる記憶違いなのかを判断しなくてはいけません。それを長期間続けることは、困難なことであり、通常はどこかで破綻することが目に見えています。
多くの人に対して長期間それなりに信用してもらう方法は、一つしかありません。それは「発言や行動や約束を通して正直な自分を見せる」こと。そして「それを繰り返して信用してもらう」こと。
もちろん、ここぞというところで背伸びをしたり、自分の実力以上に頑張ったり、無理をしたり、裏付けのない虚勢を張ったりすることもあるでしょう。でも、基本路線として正直ベースで活動するのが賢明です。特に、まっとうな知的生産者は。
小技を使って優位に立とうとしたり、ずるをして一歩先んじようとする姿勢は賢明ではありません。どこかでその「小技」や「ずる」はバレてしまい、信用を失うからです。知的生産を行う業界で、最も高価なものは信用です。
すべての人に信用される人なんていません。でも、多くの人に信用されることはとても大事です。
信用というと大げさになってしまいますが、「あの人は基本的にこういう人」と周りの人が認識する姿というほどの意味で書いています。
「馬鹿な人」は笑われることがあります。でも、憎めないキャラとして好かれることもあるでしょう。
でも「ずるい人」が好かれることはありません。「嘘をつく人」が信用されることもないでしょう。
だから、目の前の小さな利益のためにずるをしたり、人をだましたりしないほうがいいと思います。特に、たくさんの賢明な人を相手に、長期的な活動をしていきたいならば。
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年9月27日 Vol.235 より
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