著者として、図書館について思うこと(本を書く心がけ)
本が売れる/売れないというのは、本の収入で生活している結城に直接関係しています。では著者として結城は、図書館についてどのように考えているでしょうか。
結城は、ほとんどの本はそもそも「読者に見出されていない」と思っています。図書館で読んだからもう買わない、というケースはもちろんあるでしょう。でも「自分が書いた本を読者に買ってもらう」ということを考えた場合、もっとずっと大きな要素は、
結城の本を新たな読者に見つけてもらうこと
ではないかと思っています。
図書館であれ、どこであれ、読者さん(候補)に、
「うわ、なに、こんなおもしろい本あるなんて知らなかった!」
という具合に、結城の本と出会ってもらいたい。そのように、結城の本を「見出してもらうこと」がとても大事だと思っています。
本当におもしろい本で、読者が「買う価値がある」と感じるならば、絶対に読者は買ってくれる。買わないまでも、記憶に残してくれる。あるいは他の人に紹介や推薦をしてくれる。私はそう思っています。
結城は、そのような読者の行動を深く信じています。なぜなら私自身がそうだからです。いい本はしっかり買うし、いい本はみんなに推薦する。ずっと記憶に留め、機会があるごとに「そういえば、あの本もう一度読みたいな」と思う。
だから、私は著者として、
・読者がおもしろい本だと思ってくれるような本を書くこと
・読者が結城の本に出会うチャンスを妨害しないこと
が大事であると考えています。
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あわてて補足しますけれど、これはあくまで結城個人の考えであって、他の考えを持っている著者さんを批判しているわけではありませんし、私のような考えを持たなければいけないと強制しているわけでもありません。
著者さんの中には「図書館に自分の本を入れるな」と考える人もいるし、「中古書店で買うな」と主張する人もいます。それを批判しているわけではありません。状況はそれぞれ違いますし、著者にはそれぞれの考えがありますから。
先ほど、いささか強い表現で、「読者は気に入った本なら絶対に買ってくれる」と言いました。「絶対」はさすがに言い過ぎかも知れませんが、決して想像で言ってるのではありません。
というのは、結城はこれまでにたくさんの読者さんから、「図書館で借りて読みましたけれど、お小遣いがたまったので、やっと買えました!」というメールをもらってきたからです。こんなメールは著者として感動です。「買いました!」じゃなくて「買えました!」という言葉遣いから、読者さんの喜びが伝わってきて泣けてきます。
「『数学ガール』という本なんて」と親に反対されたけれど、必死で主張してとうとう買ってもらった」という男の子もいました。親から「勉強に役立つなら買ってやるよ」と言われたけれど、自分のお金で買いたかったからお年玉で買ったという女の子もいました。どういう買い方がいいとか、わるいとかいう話ではありません。読者さんは「これはおもしろい!」と思った本を心から求めていて、積極的に買ってくれるということが言いたいのです。
そして図書館は、生徒さんや学生さんにとって、おもしろい本を見出す場所、本の出会いの場所。そのようなすばらしい場である図書館に、自分の本を置いてもらえるというのは、とてもうれしいこと。結城は著者として、心から、そのように思います。
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ありがたいことに、結城の本は昔から多くの図書館に入れてもらっています。それはたいへん感謝なことですね。それは一種の「推薦」であり「承認」です。図書館に対して購入の希望を出した人の推薦。図書館の中で購入を決定した人の承認。それに対して感謝の念を抱くのは当然です。
推薦や承認というのが大げさなら、もっとやわらかく「応援」と言ってもいい。いろんな方が、それぞれの立場で、結城の本を「応援」してくださる。それは、たいへん感謝なことですね。
一冊の本を人に推薦するというのは、場合によっては重いことです。だって、下手な本や怪しげな本を推薦したら「何この人」と思われるでしょう。またまた大げさな言い回しになってしまいますが、人は、自分の名誉を賭けて、本を推薦している。そういう面は確かにあるのではないでしょうか。
さまざまな学びの場所で、教師や先輩が、生徒や後輩に対して、
「この本はいい本だよ。読んでみたら」
と推薦してくれるような本を書きたい。結城は本を執筆するときに、いつもそう思っています。
図書館に入ったら売れなくなるなんて、結城はまったく思っていません。みなさん、結城浩の本を図書館で借りてください。そして、読んでください。
本は、出会いですから。
ぜひ、結城の本に出会ってください。
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※結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年11月10日 Vol.189 より
↓こちらの本には、図書館に関連した話題で「結城浩へのインタビュー」が掲載されています。