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思い込みに気付く心(日々の日記)

○○しさえすれば……

誰しも「思い込み」というものを持っています。そしてそれが「思い込み」であると気付かない場合もよくあります。

多くの人は「お金さえあれば幸せになれる」と思っています。でも冷静になって、あるいは真剣になって考えればわかりますが、必ずしもそうとは限りませんよね。

「お金さえあれば〜」と同じように「いい学校に行けば〜」「いい会社に就職できれば〜」「あの人と結婚できれば〜」……そうすれば、幸せになれる。それは多くの場合「思い込み」です。その思い込みがすべて悪いと主張したいわけではありませんが、思い込みは必ずしも事実ではありません。

「あの人と結婚できれば幸せになれる」と思っていたのに、なぜ私は幸せじゃないんだろう。そんなふうに考える人は数え切れないほどいるでしょう。あれは私の「思い込み」だったんだ、というのは真実なのかしら。「○○しさえすれば」というのは「思い込み」である可能性が高そうです。

人間の理解力や、状況判断力というものは極めて限られています。おっと、主語を「人間」なんて大きなものにしてしまいましたが、「自分」で考えればすぐにわかります。自分の理解力や、状況判断力というものは極めて限られています(確かに)。だから、自分の仕事や生活でしょっちゅう失敗をします。「きっとこうなるはず!」と思い込んで大失敗することもよくあります。

時間は巻き戻せない

時間は絶対に巻き戻すことはできません。

ですから、失敗をしても、時間を巻き戻してやり直すことは絶対にできません。これは確かなことです。でも、そこから「失敗したら立ち直れない」と結論づけるのは誤りです。「失敗したら立ち直れない」と考えることもまた、「思い込み」の一つに過ぎないのです。

自分自身を理解する力、現在の状況を判断する力、それには限りがあります。なので「この失敗から、自分は絶対に立ち直れないはず!」という結論が真実とは限らないのです。それもまた「思い込み」の一つに過ぎないかもしれないのに。自分の理解力、状況判断力を完全に信用してしまいがち。不思議ですね。

まちがいを犯さないのは不可能

もしもあなたが(そして私が)、一回の失敗もなく、一点の曇りもない人生をめざすとしたら、心は穏やかになりません。なぜなら、そんなことは不可能だからです。

ですから、生きていくためには、自分の「思い込み」に気付き、自分の失敗をどのように許容するか、受け入れるかが大切になります。

プログラミングでは、まちがいを犯さないことは大切ですが、絶対にまちがいを犯さないというのは不可能です。ですから、テストをしてまちがいを検出し、それを修復します。まちがわないことではなく、まちがいをしても大丈夫なシステムを作ること。それが大切になるのです。

私たちの生活も同じです。変な「思い込み」にはまりこまないことは大事だし、失敗を犯さないことは大事です。でも、それを完全にゼロにするのは不可能です。ですから、「思い込み」に気付き、失敗を許容し、体勢をどう立て直すかが大切になります。

失敗したときに大切な三つのこと

失敗したときに最も大切なのは、「自分の失敗を検出すること」です。「おっと、まずいぞ。失敗しちゃったぞ」と認めること。対外的にはそしらぬ顔をしたとしても、自分の中では「うん、これはまずい」と認めること。そのような「検出」がないと、自分を立て直すことは困難です。

次に大切なのは、「自分は特別な人間ではないと認めること」です。似たような失敗はおそらく世界中で起こっているし、そして世界中の無数の人が、そこから立て直している。自分がいま直面している問題は、決して特別なことではない。それを認めるのは人によってはつらいことですが、自分が凡人であることを自覚するのは、立て直しには有効です。

もう一つ大切なのは、「自分は特別な人間であると認めること」です。さっきと矛盾するみたいですね。でも、自分の特異性を認めるのは大事です。他の誰でもない自分の状況を立て直す一歩は、世界中で自分一人であるという事実を認めることです。立て直しで他の人の助けを借りるなということではありません。助けを借りるとしても、その一歩を踏み出すのは自分に他ならないということ。他人任せにできない部分は確かにある。転んだ後、ふらつきながらも、自分の足で立つしかないのです。

一歩ずつ、一歩ずつ

私の判断はいつも正しく、失敗などしないという幻想は心地よいものです。特に自分の生活がうまくいっているときには。しかしそれは現実ではありません。

自分はたくさんの「思い込み」を持ち、しょっちゅう失敗をする、世界のどこにでもいる平凡な存在。それを認めるのは、現実という大地に足を付けて歩くことに繋がります。それは健全な態度でしょう。

しかし、それと同時に、自分が世界にたったひとりの存在であるという自覚も大切です。私が「わたし」と思えるのは自分しかいないからです。この人間は、生まれたときから付き合ってきた。思い込みだらけで失敗ばかりしている。しかし、これが「わたし」という人間に他ならないのだ。私のかけがえのない大切な相棒、それが「わたし」だ。これもまた健全な態度です。

私たちは「思い込み」をたくさん抱えている。でも、幻想はほどほどに、自分の現実を見据えつつ、ゆっくりと一歩ずつ歩んでいきましょう。

先週はまずまずだったけど、おとといはちょっとうまくいった。昨日は大失敗をやっちまった! でも、そんな「わたし」と共に今日を歩き、明日に向かう。

失敗する自分を許容し、そんな自分もかけがえのない存在だと認め、生まれたときからの相棒である「わたし」と歩んでいく。

等身大の自分を大切にする。自分は平凡だけれど、このままでかけがえのない存在だと認める。自分が何をするかではなく、自分が自分であることに意味がある。いまという時間の、ここという場所に、自分が存在していることに意味がある。

結城は、そんなふうに考えて毎日を過ごしています。

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以上、「思い込みに気付く心」というお話でした。

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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月5日 Vol.223 より

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