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父から学んだ「教える」ということ[Part 4](教えるときの心がけ)

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2014年9月2日 Vol.127 より

夏になると結城は、亡き父のことを思い出す。

 * * *

父は趣味でアマチュア無線や電子工作をやっていた。趣味といってもかなり本格的で、工具類や測定機器も充実していた。シンクロスコープが何台もあり、ドライバーやペンチの類いも数え切れないほどあった。私は父に、半田付けや電子工作を教えてもらった。

いや、それは正確な表現じゃない。確かに半田付けは教わったけれど、電子工作は教わってないな。私は『ラジオの製作』という雑誌を買ってきて、そこに書かれている電子工作のうち簡単なものを自分で作るのが好きだった。

いまでもよく覚えているのは電子サイコロ。赤いLEDを7個使う。サイコロの六の目の形にLEDを並べ、さらに中央に一個LEDを置く。合計7個。簡単な発振回路とカウンタとデコーダを組み合わせて、一の目から六の目までが定期的にちらちら表示するように回路を組む。スイッチを押すとサイコロの表示が止まる。そんなちょっとしたおもちゃである。

それから好きだったのはリトルバードという名前の電子おもちゃ。発振回路を工夫して鳥の鳴き声のような音を出すようにする。そこに、光の強さで抵抗値が変わるCDSという素子を組み合わせる。そうすると、朝になると鳥が鳴き出す電子おもちゃができあがる。

これは私のお気に入りで、あまりにうれしくて玄関先にリトルバードを設置した。次の朝、家のみんなが寝ている時間にリトルバードが大音響で、ピピピピピ!チチチチチ!と鳴き出して、家族の顰蹙を買ったのもいまや良い思い出である。

家から車で一時間ほどの町に電子パーツショップがあって、電子おもちゃを作るためのICやLEDを買うため、親によく連れて行ってもらった。ためたお小遣いのかなりの部分は部品に使ったのではないだろうか。

部品を組み合わせただけだと、むき出しの部品が出て格好が悪いので、ケースに収めることになる(シャーシという)。でもアルミのケースは加工が難しいし、値段が高くて手が出なかった。その代わりによく使ったのは、プラスチックの弁当箱である。スーパーのキッチン用品売り場で、手頃な大きさの弁当箱を買う。プラスチックだから穴も開けやすいし、フタの開け閉めも楽だ。

子供の頃、そんなプラスチックの弁当箱に収めた電子おもちゃをたくさん作った。

(自分の思い出ばかり書いていて、なかなか父の話にならないな)

私が電子工作しているのを父はよく見ていた。あまりあれこれ口出すことはなかったけれど、私が質問するとていねいに答えてくれたし、必要ならば実演してくれた。はんだごての使い方やケーブルのむき方、リーマという工具で穴を大きく広げる方法、テスタを使って導通試験や電圧・電流を測る方法などである。

私の作業や作成方針に口を出すことはほとんどなかったけれど、私が弁当箱をシャーシ代わりに使っていたことは気になっていたようだ。

「ちゃんと完成させなさい」と一度か二度言われたことがあるのを覚えている。硬いアルミのケースに収め、電子工作を一つの作品として完成させなさい、というほどの意味だと思う。

私自身はそれに従うでもなく、相変わらずプラスチックの弁当箱を利用していた。何しろ安いし、それに私にとっては電子回路を組んで動くまでが楽しいのであって、あまり「ちゃんと作る」ことにはこだわっていなかったからでもある。

父は違っていた。父が電子工作をするときには、どんなに小さなものでも、きちんとケースに収め、電源スイッチの上下にはインスタントレタリングで、ONとOFFという文字まで記入していた。他の人にも使えるような形に仕上げることまでこだわっていたようだ。

電子工作をしていたときの話ではないけれど、父から注意されたことの思い出がある。

小学校だったか中学校だったか忘れたが、私は、塩ビのパイプを加工してケーナという縦笛を作ったことがある。穴を開けて、先端をやすりでちょっと削るだけで、簡単に作れ、意外にきれいな音が出る。

その作業をするときに、私はテレビをつけっぱなしにしていた。たしか、毎週楽しみに見ているアニメだったと思う。ちらちらとテレビを見ながら、ケーナを削っていると、父がいささか強い口調で、「作業中はテレビを消しなさい」と私に言った。私はすぐにテレビを消してケーナ作成に戻った。父は、テレビで半分気を散らしながら作業をするな、というほどの考えで注意したのだと思う。そのことを、なぜかいまでもよく思い出す。

私は自分の子供にときどき、「どうせやるなら、きちんとやりなさい」と言うことがある。子供が計算をいいかげんにやろうとしたり、難しい問題をすぐに投げだしたときに言う。

私が「どうせやるなら、きちんとやりなさい」と言うとき、その言葉の何パーセントかには、私の父の言葉が宿っているように思う。

「ちゃんと完成させなさい」
「作業中はテレビを消しなさい」

父が私に言った言葉が、私の言葉に宿っているのだ。

 * * *

夏になると結城は、亡き父のことを思い出す。

 * * *

Part 1〜Part 3はこちらにまとめています。

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結城浩

書籍執筆者。著書に『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。http://bit.ly/hyuki-mm にて「結城メルマガ」をnote配信中。https://bit.ly/girlnote にてcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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