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【大人の数学】学び直すときは、どこまで戻るべきか?(学ぶときの心がけ)

質問

二十数年前、高校一年生はじめての単元「行列」でつまずきました。

「数学は基礎からの積み重ね」と言いますが、私の場合はどこまで戻ればよろしいでしょうか。

$${x}$$や$${y}$$の値をパズル的に求めることは好きだったのですが、$${n}$$という特定の値を持たない代数で、イメージができなくなりました。

結城浩のメールマガジン 2019年12月17日 Vol.403 より

回答

もしもあなたが行列をピンポイントで学び直したいならば、私が書いた『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』はオススメできます。でも、あなたが求めているものはそれではなさそうです。

あなたの質問だけから直接的な回答をするのは難しいですけれど、大人が「数学の学び直し」をするときに大事になりそうなことを書きますね。

あなたの態度を決めつけるわけではないのですが「数学の学び直しをしたい人」は、しばしば「《ここ》からやり直すべし」という正解を求めようとします。でも「《ここ》からやり直せばいい」と一発で当てるのは、とても難しいことです。

そうではなくて、必ず「《ここ》についてはさっぱりわからないぞ」や「さすがに《ここ》は確実にわかるなあ」や「うーん……《ここ》は何となくわかりそう、いや、わからないかな」というプロセスが必要になります。要するに試行錯誤が必要なのです。学び直しに限らず、学ぶときにはいつも試行錯誤が必要です。

「《ここ》からやり直せばいい」という地点を一発でねらうのではなく、何かしらの本を読み「はてさて、自分は《ここ》に書かれていることを理解しているだろうか?」と試すのです。これは、結城が最近あちこちで書いている《自分の理解に関心を持つ》態度そのものです。

誰かから「あなたなら《ここ》からやり直せば大丈夫ですよ」と言われて、もしも理解できなかったらショックを受けます。「うわあ、やっぱり自分はダメなんだあ」と思いがちです。でも、そうじゃないんですよ。わかる/わからない、理解している/理解していない、それを自分で判定し、理解できなかったら遠慮なく理解できる地点まで戻る。それが大事なのです。

確かに数学は積み重ねの学問です。でも、一本道ではありません。また人間の理解も一本道ではありません。もっと複雑で多次元に渡っています。ですから、自分は《ここ》に書かれていることをどんなふうにどれだけ理解していて、何がわかっていないのだろうか……そのように考えることがとても大事なのです。自分の理解を注意深く観察しましょう

さて、あなたの質問に戻ります。「$${x}$$と$${y}$$の値をパズル的に求める部分」というのは、方程式を解く手順を利用したり、その途中にちょっとひらめきが必要だったりする部分と想像します。計算して答えが出てくるのは楽しいですよね。あなたがそのプロセスを楽しめるなら、数学を学ぶプロセスもきっと楽しめますよ。《自分の理解に関心を持つ》態度を持ち、ていねいに自分の理解をケアするのがポイントです。

$${n}$$という特定の値を持たない代数」の意味は正確にはわかりませんが、おそらくは「文字を使って一般化した式の扱い方」のことだと想像します。数学の本では、具体的な話から一般的な話に飛び、その結果として文字を使った式が登場します。

具体的な数が出てこないで、$${n}$$だけで話が進むと「いったい何の話なんだ!」と言いたくなることがあります。数式を文字を使って書き、それによって無数の具体的な主張をたった一つの数式で表そうとする。これは、数学で非常によく出てくる手法です。結城は、「数学ガール」シリーズで《文字の導入による一般化》と表現しています。

数式の扱いに慣れている人は、数式に文字が出てきたときに具体的な値をさささっと当てはめます。そして「ふんふん、確かにそうだね」と考えて、先に進みます。$${n}$$にたとえば$${1,2,3}$$などの具体的な値を入れてみて「ははーん、そういうことをこの式は言ってるんだね」と納得するわけです。具体的な値でいったん納得すると、その数式に対する信頼が生まれ、その数式を受け入れやすくなります。また記憶もしやすくなります。

「数学ガール」シリーズによく出てくる《例示は理解の試金石》というスローガンにも通じますが、書かれている一般的な式をそれだけで理解するのではありません。具体的な値を自分で主体的に入れてみて(すなわち、例を作って)学ぶことがこの上なく大事です。めんどうで泥臭いようですが、そこを通過するのが大事です。

数学に限らず、学ぶときには、しょっちゅうつまずいたり転んだりします。まちがうことは大事です。まちがうことで、自分が何を理解していて、何を理解していないかが明確になるからです。まちがわず、つまずかず、成長することは不可能です。

あなたが具体的にどうすればいいかは、私には何ともいえませんが、一つの例としては、自分に理解できそうな参考書や問題集を本屋さんで探してみるのはアリだと思います。本を読む。問題を解く。そのプロセスの途中では必ず《自分の理解に関心を持つ》ことを忘れずに。

どうしてもわからないときに聞く先生、アドバイスしてくれる人が近くにいるのが望ましいのですが……最近は大人のための数学教室も見つかりますので、そういうところを利用するのも一つの方法だと思います。

数学は一生楽しめるものです。ぜひ学びを続けてくださいね!

学ぶときの態度については『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』でもたくさん触れていますので、よろしければどうぞ。

以降では、関連している読み物を紹介します。

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◆学びを支える要素(学ぶときの心がけ)
https://mm.hyuki.net/n/n57686f374b39

◆「学校で習ったか」を気にする前に(学ぶときの心がけ)
https://mm.hyuki.net/n/nfabb6db68d62

◆勉強が得意な生徒と苦手な生徒の違い(学ぶときの心がけ)
https://mm.hyuki.net/n/nf7a5f26cc7e8

◆20代エンジニア、高校であきらめた数学を勉強し直したい - 学ぶときの心がけ
https://mm.hyuki.net/n/n86e1bbcf03aa#5cA7I

◆ 数学の勉強方法を教えてください! - 学ぶときの心がけ
https://mm.hyuki.net/n/n673e8d263529#GeTtN

◆中高生が数学を学ぶための秘訣
https://mm.hyuki.net/n/nc378005c21dd


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